被害者としての死か、加害者としての生か、あなたならどちらを望む
映画「望み」を公開初日に観てきましたのでレビューを書きます。
「望み」は、クローズドノートや検察側の罪人の著者・雫井脩介のサスペンス小説を人魚の眠る家や20世紀少年などの多くのヒット作を手掛けている堤幸彦監督が映画化した作品です。
愛する息子は、殺人犯か、被害者か。それとも
映画の公式サイトにも書かれている言葉ですが、予告編からも家族の葛藤とその結末がどうなっていくのか、めちゃくちゃ気になりました。
映画「望み」とは
2020年10月9日に公開した作品で、原作は雫井脩介になります。
先日観た映画「浅田家」も家族愛を強く感じた作品でしたが、本作「望み」も予告編からは事件に巻き込まれた息子を中心とした家族愛を強く感じさせられることを予測させられました。
ただ、浅田家のようにホッとするような家族愛とは異なり、殺人事件に向いあう家族の愛や信頼などがテーマということで、少し重そうな部分があるかもしれません。
【ネタバレあり】映画「浅田家」のあらすじから最速レビュー!!夫婦役で出演した堤真一さんと石田ゆり子さんの熱演もめちゃくちゃ心に響きそうで素晴らしさが伝わってきました。
予告編からもこの映画がいかに重たいテーマを扱っているかということが伝わってきますが、家族それぞれが望んだ結末がとても気になりました。
予告編はこちら
あらすじ
一級建築士の石川一登(いしかわかずと)は、校正者の妻・貴代美(きよみ)と二人の子ども、高一の息子・規士(ただし)と中三の娘・雅(みやび)の4人で暮らしていた。
規士は部活でサッカーを真剣にしていたが、ある日上級生の悪質なタックルにより、膝を壊してしまい、サッカーの夢を諦める。
部活を辞めた規士は、家族とも少し距離をとるようになり、度々無断外泊もするようになる。
そんなある日、規士はいつものように無断外泊をするが、翌日になっても戻ってこない。
一登は警察に電話をするが、テレビからは少年の遺体が発見されたという放送が流れる。
殺害されたのは、息子の同級生であり、さらに規士を含めて3人が行方不明になっていた。
さらに現場からは2人の若い男が逃走していったという通報。
警察からは事件の関与を疑われ、マスコミからは追われる石川一家。
一登は、規士の無実を信じ、貴代美は犯人でもいいから生きていることを望む。
規士は殺人犯なのか、それとも被害者なのか。
「望み」のネタバレなし感想
この映画は、サスペンス・エンタテインメントとなっています。
僕はよくどんでん返し系のミステリーを好んで観ることが多いのですが、この映画には
- 予測不能のトリック
- どんでん返しの結末
などは一切ありません。
ただ、殺人事件に関係してしまった家族の葛藤、苦しみなどをリアルに描かれているだけです。
この映画のポイントは、「これは実話?」とも思わされるそのリアルな心理描写です。
規士がいなくなり、友人が遺体として発見される。
逃げた犯人は2人で、行方不明者は3人。
ということは、1人は既に犯人により殺害されている可能性があるということ。
規士が犯人ではないとしたら、それは被害者として亡くなっていることを意味し、逆に犯人だとしたら、規士は生きている。
そのどちらを選んだとしても、そこには不幸や絶望が待っています。
この2つの結末の間で揺れ動く家族の心理描写が生々しく、とてもリアルでした。
また、本作では光や明るさをうまく使っていました。
家族の住む家のシーンでは、家族は最初幸せだったころは、部屋全体を明るく撮っていたのですが、息子がいなくなり事件への関与が疑われてくると、部屋を暗くし、家全体が重い空気で覆われたようにみせていきます。
途中、お祖母さんが来て、母親を元気づけるシーンがありますが、そこでは2人の後ろの窓から光がさして包まれるような演出で、お祖母さんの大きな愛情が表現されていました。
あと空を映すシーンも度々出てきており、どんよりとした空など家族の心理描写がうまくあらわされていると感じました。
そして、家族それぞれの望み。
父親の一登は、規士の無実を信じようとします。
母親の貴代美は、規士に生きていて欲しい、つまり犯人であることを望みます。
妹の雅は、自分の将来を考えて、兄の無罪を望みます。
それぞれの感情が生々しく、痛々しく演じられていましたが、僕はもし、自分の家族はこのような状況になってしまったら、何を望むのだろうと考えされられたりもしました。
あなたなら何を望むでしょうか?
僕はそれぞれの気持ちが理解できましたが、特に無罪を信じる父親に深く共感しました。
そして、家族を取り囲む様々なまわりの人々、刑事、マスコミ、SNSなどのネット、またそのイメージにより扇動される世論など、現代社会に対する問題提起を表しているようで、そのリアルさが素晴らしかったです。
ラストでは、規士の真相が明らかになります。
その事実に直面したときの、家族の切なさに涙しました。
最後に明かされた規士の望み。
その望みを知ったとき、やりきれない想いと感動に僕は包まれました。
観ていてとても苦しく胸が締め付けられた映画ですが、最後の母親の言葉には深く共感されられました。
ぜひ、映画館で観て、「あなたは何を望むのか?」一緒に考えてみてはどうでしょうか?
「望み」ネタバレあり感想
それでは、ネタバレありで感想を書きます。
皆さんはこの映画をどう感じましたでしょうか?
僕は観終わった後にズシッと残る余韻がありました。
最後のエンディングの森山直太朗さんの曲の間は、ずっと余韻に浸ってました。
前半、息子がいなくなってから事件の関与が疑われてからの、事件加害者家族への攻撃のひどさ、怖さをめちゃくちゃ感じました。
最初、家族の日常をリアルに表現されていたため、うまく感情移入されられたからだと思います。
加害者の家族になることで、
- 仕事を失う
- SNSで晒され、世論からのバッシングをうける
- マスコミは一方的に攻撃してくる
という現実もこちらの気持ちが重くなり落ちてしまうほどうまく表現されていました。
この現実に家族は逃げることもできず、ただ家で耐えていくしかない。
そして家族はそれぞれに自身の望みがあり、その想いがぶつかりながら交錯していく。
ここは本当にリアルで心がふるわされました。
ただ、あまりにリアルでちょっと怖かったくらいです。
父親の息子の無実を望む気持ち。
ここは自分の職を失うことなどは関係なく、ただ息子への愛情を感じされられました。
亡くなった息子の友人の葬式に参列したシーンは息子を信じる気持ちが強く感じられていいシーンでした。
母はとにかく息子の無事を望みます。
ここは母親の母性のようなものを感じました。
殺人犯の親として、一生世間から糾弾されても、息子とともに罪を背負って強く生きていく、こちらにも強い愛情を感じさせられました。
そして、妹。
母親の前では言えなかったがと、父親の前で本音を話しますが、僕はその気持ちも痛い程わかりました。
まだ中学生の妹は、兄のせいで学校や塾でも噂され、そして将来の進路まで自分の望むようにはいかなくなる辛さが表れていました。
加害者なのか。被害者なのか。
どちらになっても家族にとっては絶望しかありません。
途中、息子が電話で「やらないとこっちがやられる」と話しているのを聞いたり、ナイフを所持していたりと、加害者と思わせるシーンはありましたが、結局、息子は被害者で、遺体として発見されます。
ここはある程度予想できた展開でしたので、もう少しひねりがあるとよかったと思いました。
そして、サッカーを断念して家族とも距離を取りだしていた息子の望みが明らかになります。
父親が息子に掛けた言葉。
「未来は変えられる。何もしなければ、何も出来ない大人になる」
父親に反抗していた息子だが、実の父親の言葉は息子に届いていて、新たな目標を見つけて目指していたことがわかるシーンは感動的でした。
その後、家族は息子の死から立ち直り、歩き出します。
エンディングでの森山直太朗さんの曲合わせて、景色が上昇していく演出は、亡くなった規士の魂が天に召されていくのを表現しているようにも見えましたし、僕は家族が新たな目標に向かい、息子の死を乗り越えて立ち上がっていく様子を表現しているようにも感じられました。
この映画は大きな展開やどんでん返しなどはありませんが、結末が絶望の2択しかないことに、僕はどんでん返しを望んでしまいました。
そして誰でも起こりえる日常をリアルに表したドキュメンタリー映画のようにも見えました。
主演の堤真一さんら家族の演技が素晴らしく、心に深く突き刺さる映画でした。
まとめ
今日は10月9日公開の映画「望み」を紹介しました。
かなり重い映画でしたが、息子を信じる家族愛が表現されていて、深く考えさせられる映画でした。
誰にでも合う映画ではないかもしれませんが、同じ立場の子供がいる親には心に突き刺さると思います。
そして、映画が終わった後は余韻でしばらく立ち上げることができないくらい、いろいろと考えさせられた映画でした。