食は人の天なり
映画「みをつくし料理帖」を公開初日に観てきましたのでレビューを書きます。
みをつくし料理帖は、著者・高田郁(たかだかおる)の日本の時代小説。
全10巻で構成され、2009年5月に第一作が刊行され、2014年8月の第10作にて完結しています。
その後、2012年および2014年にテレビ朝日にて北川景子主演で、スペシャルドラマ化、2017年および2019年にNHKにて黒木華主演で連続ドラマ化され、今回、角川春樹監督の最後の作品として松本穂香出演で映画化されました。
劇中に登場する料理の映像も素晴らしく、スクリーンからこちらに香りがしてきそうなほど目が釘付けになってしまいました。
今日は、ネタバレも後半でしつつ、その魅力を紹介します。
映画「みをつくし料理帖」とは
2020年10月16日に公開した作品で、「ずっと一緒にいよう」と話していた幼なじみの二人が大洪水によって引き裂かれ、それぞれの人生を歩んでいく中で、再びお互いを見つけ、再会できるのかを描いた物語です。
二人の幼なじみは、松本穂香さんと奈緒さんが演じていて、二人の雰囲気のいい空気感がスクリーンからも伝わってくるような暖かさも感じました。
タイトルにはある通り、本作は料理がテーマとなっています。
料理の監修も服部幸應さんが務めるなど、かなりこだわった作品となっています。
予告編はこちら
あらすじ
江戸時代の享和二年の大阪、澪(松本穂香)と野江(奈緒)はまるで姉妹のように仲の良い幼なじみだった。
二人は楽しく過ごしていたのだが、ある日、大洪水が大阪を襲い、澪と野江は生き別れとなり、互いの行方が全く分からなくなってしまう。
その後、澪は江戸に出て、料理人になっていた。
江戸と大阪の好みの味に苦労しながらも、澪は多くの方の助けを借りながら、一人前の料理人として成長していく。
一方、行方のわからなかった野江だが、吉原の遊郭で幻の花魁あさひ太夫として人生を歩んでいた。
大洪水後、全く異なる人生を歩んできた二人だが、ある出来事がきっかけで、澪と野江は互いの存在に気づく。
波乱万丈の人生を歩んできた二人は、再び手を取り合って歩くことができるのか。
「みをつくし料理帖」のネタバレなし感想
まずは、主演を務めた松本穂香さんと奈緒さんの澪と野江。
二人の小さいころからの関係性がとても温かくてよかったです。
劇中に何度も出てくるキツネのポーズ。
これは本作の二人のつながりを表わす大事なポイントですが、小さいころ、泣き虫だった澪に対して野江が、もう泣かないようにと言う意味を込めて
「キツネはコンコン、涙は来ん来ん」
と手でキツネの形を作って慰めます。
序盤で出てきた二人のやり取りですが、本作では要所、要所で何度も繰り返されて出てきます。
これが、観客の涙を誘うポイントとしてうまく使われているなぁと感じました。
二人の境遇と重なって、涙が止まらなくなってしまいました。
また、タイトルにもある通り、料理もポイントです。
澪は江戸の味付けに最初めちゃくちゃ苦労します。
初めて澪が務めるつる屋で作った料理は、お客さんから「なんだこれは」みたいな感じで全く受け入れてもらえません。
そこから、澪は、苦労を重ね、周りの人の助けも借りて、ある料理を作ります。
それは、江戸の料理番付にも載るほど有名になり、みんなに受け入れられます。
この料理にたどりつくまでの澪と温かく見守るつる屋の店主・種市、澪の育て親・ご寮さん、などを見ているだけでこちらも温かい気持ちにされられました。
そして出てくる料理。
昔の時代の料理ということで、素朴な感じや素材を活かした料理という感じで、観ていてホッとさせられるような料理でした。
劇中にも料理のカットシーンが何度も出てきますが、料理の質感や湯気の感じなどが惹きつけられるような映像だったと感じました。
監督いわく、料理の見せ方にも凄くこだわっていて、本作はデジタルで撮っているとおっしゃっていました。
デジタルにすることで、料理をよりおいしく見せるように撮ることにこだわっていました。
劇中だけではなく、エンドロールにはすべての作られた料理が登場しますので、ここもぜひ見てほしいポイントですね。
そして、この料理を通じて、互いに会話をするようにやり取りを行なう澪と野江。
ここに二人の絆を強く感じました。
そして、澪や野江を囲む他の俳優陣もめちゃくちゃよかったです。
澪を支えるつる屋の店主を演じた石坂浩二さんもその人柄がうまく表現されていましたし、ご寮さんを演じた若村麻由美さんも澪のために殴り込む際の鬼気迫る演技や優しく澪を抱きしめるシーンなど引き込まれる演技でした。
小松原を演じた窪塚洋介さんも見事でした。
終盤で見せる澪との会話のシーン。
ここではセリフはほとんどなく、ただカメラが二人の周りを撮るという長廻し。
この言葉のない心の会話を表情で演じるシーンはめちゃくちゃよかったです。
他にも藤井隆さんや浅野温子さんなど魅力的な演者がでてきます。
中でも僕の一番の驚きは松山ケンイチさんでした。
全くストーリーには関係のないシーンで一瞬だけ出演されます。
松山ケンイチさんをこのシーンのためだけに使うなんて、なんて豪華で贅沢な使い方なんだって思わされました。
みをつくし料理帖は、料理を中心に、人のつながり、温かさを描いたとても素晴らしい映画でした。
二人をつなぐキツネの指真似以外にも
- 冒頭で反町さん演じる易者が澪と野江に言った4文字熟語
- かんざし
- 貝殻
- 弁当箱
など、物語を見ていく中で、ポイントとなるキーポイントはいくつもあります。
監督は、作品内に3つのポイントを作ったそうです。
それは、我々観客を涙に誘う3つのポイントです。
さらに、3つ以外にも後になって、ここも追加しようとなった、もう一つ追加された泣くポイントもあります。
ぜひ、気になる方は劇場で見て、その3つ、いや4つのポイントで号泣してみてください。
「みをつくし料理帖」ネタバレあり感想
それでは、ネタバレありで感想を書いていきます。
みなさんはネタバレなしのレビューで書いた監督が仕掛けた4つの泣かせるポイントで泣きましたか?
その4つのポイントとは
一つ目
つる屋が放火にあって絶望している澪に対して、吉原の料理人である又次が現われてあさひ太夫に料理を作ってくれと依頼するシーン。
その弁当を開くと中には、小判と手紙。
手紙には「雲外蒼天」という文字。
澪が野江に存在に気づく場面です。
二つ目
あさひ太夫の部屋の窓から野江が下に居る澪とお互いの存在を「キツネはコンコン、涙は来ん来ん」と確かめ合うシーン
会えない二人が幼いころの二人だけがわかるキツネの指真似で言葉を交わす場面です。
三つめ
最後のシーンで、澪と野江が再開をはたすシーン。
ここはいつもの花魁としてではなく、野江として澪の前に現れます。
時間にしては数秒でしたが、やっと会えた二人の表情にグッときます。
そして監督が最後に追加した4つ目のシーン。
小松原と澪が最後に別れる前に言葉を交わすシーン。
ネタバレなしのレビューでも書いた二人が言葉ではなく、心の会話で演じたシーンです。
澪と小松原の二人の表情にグッと惹きこまれていきました。
この4つのポイントは、演じる役者の表情などでグッとくるところもありましたが、それぞれに「雲外蒼天」「キツネの指真似」など澪と野江の二人の間だけにわかるやり取りをうまく使っていて、冒頭から見ていた伏線回収もように思わされ、僕はちょっとやられました。
他にも、澪が認められる料理を作れるようになったきっかけのご寮さんのかんざしのやりとりや、最後の別れた二人をつなぐ貝殻など、要所、要所でうまくこちらの感情を揺さぶってくるポイントが作られていたと思います。
料理はこだわって撮ったと言われるだけあって、観ていてその質感や色合いなど惹きつけられ、僕は牡蠣を食べたいなぁ、なんても思わされました。
料理は昔の料理などで素朴な感じがして、現代の料理からすると華やかさなどはなかったかもしれませんが、しかし、牡蠣の宝船など素材そのものを活かした料理という感じがしてよかったです。
こぼれ梅やべっこう珠なんかは味の想像ができないので、ぜひ味わってみたいですね。
ラストのエンドロールでは、澪の運命を表わす「雲外蒼天」のような青空の下、澪と野江が二人で交わす会話のシーンが出てきます。
これがもし、澪が江戸一番の料理人となり、そして野江を身請けした後のシーンだとしたら、僕はその過程を続編で見せてほしいなと思いました。
まとめ
今日は10月16日公開の映画「みをつくし料理帖」を紹介しました。
小さいころに生き別れてしまった澪と野江の波乱万丈の人生を描きながら、二人の絆を強く感じさせられました。
澪の下り眉で、そして素朴で健気な可愛らしい女性だけど、いざというときのとても芯の強い女性は魅力的でしたし、また野江は吉原の幻の花魁あさひ太夫としてその妖艶な演技が素晴らしく、演じた松本穂香さんと奈緒さんの演技に熱くなりました。
料理を通じて二人の友情に涙がこぼれてしまう、そんな映画でした。