あと1回しかシャッターを切れないとしたらあなたは何を撮る?
10月2日に公開された映画「浅田家」を観てきましたので感想を書きます。
この映画は三重県津市出身の写真家・浅田政志さんの写真集を原案にして、実話に基づいて作られた映画です。
家族を失ったある少女からの家族写真を撮ってという願いに対して、浅田政志さんが取った行動に家族愛、家族のつながりをすごく感じされられた映画でした。
実際気になる方のために、その魅力をネタバレなし、そしてネタバレありで解説していきます。
目次
映画「浅田家」とは
写真家・浅田政志さんの実話を元に、「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)でその年の映画賞を総なめにした中野量太監督が撮った映画です。
主演は嵐の二宮和也さんが務め、撮影は浅田政志さんの出身地でもある三重県津市などで行なわれました。
映画は主に前半は家族全員でコスプレ写真を撮る明るくコミカルなテイストで進んでいき、そして後半では、東日本大震災での家族を失った少女を中心とした切ない展開になります。
家族愛を強く感じる感動作でした。
映画の公開は2020年10月2日ですので、気になる方はチェックしてみてください。
あらすじ
浅田政志は、写真好きの父からカメラを譲ってもらい、写真を撮り始めた。
写真専門学校に進んだ政志は、卒業制作でたった一枚の写真を撮ることになる。
政志が考えた被写体は「家族」だった。
家族をテーマに撮った写真は認められ、無事に学校を卒業する。
卒業後、地元に戻った政志だが、写真家には進まず、パチスロをして過ごす。
数年後、再びカメラを手に取った政志が選んだ被写体は「家族」だった。
政志は、家族の思い出、なりたかったもののコスプレをした写真を撮っていく。
個展を開くと、ある出版社の目に留まり、写真集を出版することになる。
そして写真集が、写真界の芥川賞ともいわれる木村伊兵衛写真賞を受賞する。
受賞をきっかけに全国から家族写真を撮ってほしいという依頼が次々と飛び込んでくる。
写真家としてようやく軌道に乗り始めたとき、東日本大震災が起こる。
政志は、かつて撮影した家族の安否を確認するため、被災地に向かう。
そこで、政志は家族を失ったある少女に出会う。
「私の家族写真を撮ってほしい」
政志は少女に家族写真を撮ってあげることができるのか?
予告編はこちら
「浅田家」ネタバレなし感想
この映画は、家族を撮り続けた写真家・浅田政志さんの半生の実話を映画化した作品ですが、僕は浅田政志さんとその彼を支えた家族との深いつながりや絆に涙がこぼれました。
政志の家族は、主夫として家族を支える父、ナースとしてしっかり者の母、真面目な兄の4人家族ですが、それぞれがお互いを思いあって支えているという家族愛がとてもうまく描かれていたと思います。
真面目な兄は、定職にもつかずにパチスロをする弟の政志に対して、厳しい声がぶつけることもありましたが、しかし、政志のために就職の面接の段取りをしたり、そして、いざ政志が家族写真を撮ろうと動き始めると、政志のために消防署やサーキットに掛け合ったりと、その行動には政志への愛情があふれていました。
父も主夫として家族を支えていきますが、映画の中で描かれた父が撮影した家族写真のシーンは、撮影する父の笑顔、少し嫌な顔もしながら父の撮影に付き合う兄弟の様子は、普通の家族写真の様子にも見えますが、なにか心にジーンとくるものがあり、また自分の小さい頃ともリンクして心に響きました。
母もナースとしてしっかりと家族をまとめながらも、政志のよき理解者として描かれています。
「あなたは自分のやりたいことをやりなさい。」
政志のように、仕事もせずにぐうたらな生活を送っている子どもに対して、なかなか言える言葉ではないかもしれませんが、子供を信じて包み込む母親の愛情がうまく表現されていました。
そんな中、まさしが撮った家族写真。
父、母、兄、それぞれがなりたかったものや、家族でやりたいことを写真として撮っていきます。
このシーンは、消防士やレーサーなどのコスプレをしてコミカルに描かれているのですが、その1枚1枚の写真の背景にある家族の絆が感じられました。
その後、政志は自身の浅田家以外の家族写真も撮っていくようになるんですけど、ここもただ集合写真を撮るだけではなく、家族の話を聞いた中でその家族のつながりや愛情を形にして、一枚の写真として収めていくところも温かくて感動しました。
そして、物語の大きな転機として起こった東日本大震災。
震災によってバラバラになってしまった家族や津波の被害の様子が生々しく描かれています。
ここで、政志は震災で泥まみれになった写真を洗うボランティアを手伝うことになるんですが、政志が写真を洗うシーンやその表情には、その一枚一枚の写真に込められた家族の思い出や愛情をとても大事にしているという気持ちが感じられました。
これは、これまで家族写真を撮ってきた政志だからより感じることであり、何より演じた二ノ宮さんの表情がとてもよかったです。
そして震災によって父親を亡くしてしまった少女からの家族写真の依頼。
まさしは撮ることができないと悩み断るのですが、自身の浅田家の過去の家族写真を思い出したとき、ある出来事に気付き、少女の家族写真を撮ることを決めます。
政志は、父親を亡くした家族の家族写真として何を撮ったのか。
ここは父親の愛情が溢れた家族写真にもなっており、心に深く突き刺さるシーンだと思いました。
震災という想い出したくもない辛い出来事を描いた映画ですが、そこに様々な家族の愛情を描くことによって、とても温かく感動する心地よい映画になっていたと思います。
「浅田家」ストーリーのネタバレ
ネタバレ①:オープニング
浅田家では、父の葬式が行なわれようとしていた。
母、兄など家族が悲しみにふける中、政志がまだきていなかった。
ようやく、到着した政志は持ってきた父の遺影を取りだす。
その遺影は、消防士のコスプレをした父の写真だった。
兄は「父さんは消防士でもないのに何でこんな写真を・・・」と言えば、政志は「この写真の父さんが一番いい写真だから」と言う。
政志と兄は葬式が始まるまでの間、玄関先で家族の思い出について語り合う。
「始まるわよ。」
二人は呼ばれ、葬式が始まる。
ネタバレ②:少年時代~青年時代
時はさかのぼり、政志の少年時代。
カメラが趣味の父は、政志が小さいころから家族写真を毎年撮り、年賀状にしていた。
ある年の家族写真の撮影後、父は政志にカメラを譲る。
政志は喜び、すぐに父、母、兄の家族写真を撮る。
その後、政志は、家族、好きな女の子などどんどん写真を撮っていく。
写真が好きな政志は、家族の元を離れ、写真専門学校に行くこととなる。
しかし、その後、政志からの連絡は2年半全くない。
そんなある日、学校から家族あてに電話がかかってくる。
それは、政志が学校にも来ておらず、このままでは卒業ができないという連絡だった。
「ただいま」
心配する家族をよそに、政志はフラッと帰ってくる。
政志は学校の先生から言われていた。
「人生であと1回しかシャッターを切れないとしたらどんな写真を撮る?」
先生から言われた卒業の条件は、その写真を卒業制作として撮ることだった。
そして、政志が卒業制作に考えた写真は、小さいころの家族の思い出を再現した家族写真だった。
政志の撮った家族写真により、無事卒業をする。
ネタバレ③:写真家としての成功
無事卒業した政志だが、写真家になることもなく、仕事もせずに毎日パチスロ三昧。
兄からも働くことを勧められるが、政志にその気はない。
そんな状態が数年続いたが、政志は再び写真と向き合うことになる。
政志が撮りたい写真は、卒業制作でも撮った家族写真だった。
政志は父に何になりたかったのかと聞くと、父は「消防士」と答える。
政志は兄の協力も得て、消防士のコスプレをした家族写真を撮る。
母が憧れた「極道」
兄がなりたかった「レーサー」
政志はその後、家族のなりたかったものや、やりたかったものの写真を撮っていく。
そして、撮った浅田家の写真を手に、政志は写真家として東京に行くことを決意する。
小さいころから好きだった女の子・若菜の家に転がり込んだ政志は、カメラアシスタントとして働きながら、浅田家の写真を出版社に持ち込む。
しかし、出版社では面白いと興味は示してくれるが、「しょせんこれは家族写真」と言われ、相手にされない。
一向に写真家として芽が出ない政志だが、若菜の助けにより個展を開く。
当日、個展には浅田家の写真を前に楽しそうに笑う人々。
そんな中、一人の女性が大爆笑をしていた。
女性が渡した名刺には「赤々舎」という出版社の文字が。
早速、赤々舎を訪ねた政志に、女性は写真集の出版を持ちかける。
無事写真集を出版することになったが、浅田家の写真集はなかなか売れていかない。
しかし、ある日、浅田家が賞を受賞する。
それは、写真界の芥川賞ともいわれる木村伊兵衛写真賞だった。
授賞式で、スピーチをする政志と父。
そして写真撮影。
政志はここでもカメラを取り出し、家族写真を撮る。
写真集が人気になり、政志の元に撮影の依頼が入る。
それは、写真集の最後に書いていた「あなたの家族写真を撮ります」というメッセージを見て、連絡をしてきたある家族だった。
政志は、連絡をくれた岩手県に住む高原家に向う。
そして、両親と子の話を聞いた政志は、高原家の家族写真を撮る。
それは、満開の桜をバックにした両親と子ども・桜の写真だった。
写真家として人気が出てきた政志に次々と家族写真の依頼が入り、撮影していく。
そんな中、東日本大震災が起こる。
ネタバレ④:東日本大震災で撮った家族写真
政志は初めて撮った家族写真・高原家の安否を確かめに岩手県に向う。
しかし、当時の家は崩壊しており、役所、避難所でも高原家の姿は見つけることができなかった。
役所から出た政志は、駐車場で一人の青年と出会う。
青年は、泥だらけになったアルバムや写真を洗浄して、持主に返すボランティアをしていた。
政志も青年と共に写真の洗浄をはじめる。
写真を見つけて喜んでいく人々。
二人の元にさらに協力者もでてきて、ボランティアの輪は広がっていく。
そんなある日、洗浄した写真を見る少女に政志は気づく。
それは震災で父親を亡くした少女・莉子だった。
莉子は家族の写真を探していた。
政志は「たくさん写真見つかったね」と言うと、莉子は「お父さんの写真がない」と言った。
そして、政志が写真家ということを知った莉子は「家族写真を撮ってほしい」とお願いをする。
しかし、父親が亡くなっていることを知っている政志は莉子に「撮ることができない」と断ってしまう。
悩む政志は、父の誕生日を祝うため、地元に戻る。
しかし、誕生日会を行なっている時、父は脳梗塞で倒れてしまう。
父の意識は戻らず、戻ったとしても後遺症が残ってしまうと医師から言われる。
政志と兄は、当時、父から写真を撮ってもらった思い出の土地に向う。
そこで、政志は気づく。
「あの子の家族写真が撮れる。」
政志は岩手県に帰ることを決意する。
そして、岩手県に出発しようとしたとき、駅に兄が駆けつける。
「父さんの意識が戻った。」
兄は父からの伝言を政志に言う。
「いつ浅田家の家族写真を撮るんだ?リハビリして体を動くようにしておく。」
岩手県に戻ると、政志は莉子に家族写真を撮ろうと言う。
莉子、そして莉子の母、妹に家族の思い出を聞くと、「みんなで行った海」と言われる。
政志は海で家族写真を撮ろうと言う。
そして撮影当日。
政志は莉子に「時計を忘れたので貸してほしい」といい、莉子が付けていた父親の形見の腕時計を借りて付ける。
写真を撮ろうとするが、莉子は不安な表情を浮かべる。
「撮るよ。」
その時、莉子の目には、カメラを構える父親の姿が見えた。
莉子が父親の写真を見つけられなかった理由。
それは、いつも莉子たち家族を撮っていたのが父親だったから。
そのことに気付いた莉子の顔に笑顔が戻り、政志は莉子の家族写真を撮ることができた。
ネタバレ⑤:父の葬式
舞台は再び、父の葬式に。
浅田家が全員集まり、葬式が始まる。
政志、政志と結婚した若菜、母、兄夫妻、みんなが悲しむ。
兄の子どもが「おじいちゃん寝ちゃった」というと、母が泣き崩れる。
「パシャ」
その時、シャッターの音がなる。
「はい、OK。」
実は、葬式は浅田家の家族写真だった。
母が「いい演技だったでしょ」と言うと、父の目が開く。
「もう苦しい。」
浅田家が笑顔に包まれた。
「浅田家」ネタバレあり感想
それでは、ネタバレありで感想を書きます。
皆さんはこの映画をどう感じましたでしょうか?
僕は何度も涙がこぼれてしまいました。
家族写真を撮るシーンでは、少しコミカルに描かれた浅田家と、ひとつひとつの家族の愛情を形として撮っていった他の家族の写真とどちらもとてもよくて心に刺さりました。
特に、病気の子どもをもつ家族を撮った写真。
病室の窓から見えた虹をあらわすために、家族4人のTシャツに虹を描き、寝転がって家族の虹をつなげて撮った写真は本当に涙腺がやばかったです。
予告編にも出ていますが、その写真を撮る時の目に涙を浮かべながら撮る二ノ宮さんのシーンはこちらも圧倒される演技でしたね。
物語の中心となる父親を失った少女の家族写真。
最初は不安そうな表情をしていた少女や家族が、カメラを構える父親の姿を感じた時に一気に雰囲気や空気が変わっていく様子がとてもよかったです。
あの写真に写っていた笑顔の家族は、政志が撮った写真ではありますが、そこは亡くなった父親が当時ずっとカメラ越しに見ていた家族の様子が現れていたと思います。
写真はその瞬間、瞬間を切り取るものですが、そこは撮影する行為全体として家族の愛情に包まれている、そんな気がしました。
そして最後の葬式のシーン。
その前に父親が亡くなった家族の写真を撮った政志が、自身の父親を失ったとき、僕はその着地点を気にしてみていました。
政志は、父親のいない浅田家の写真を最後に撮るのかなと思ってみていましたが、見事に騙されました。
葬式自体が浅田家の家族写真であり、父親も亡くなっておらず、みんな葬式の様子を演じていただけでした。
騙されてすっきりではなく、最後に、クスッと笑わせてくれる構成が僕はとても素晴らしかったと思いました。
まとめ
今日は10月2日公開の映画「浅田家」を紹介しました。
僕はこの映画を観るまでは、浅田政志さんのことは知らなかったのですが、この映画を通してとても興味がわきました。
映画のラストには実際の浅田政志さんの写真もでてきましたが、今度書店に行ったときは「浅田家」を手に取りたいと思わされました。
震災という辛い出来事を、様々な家族愛で包み込んで温かくさせてくれるとても素晴らしい映画でした。