実在の未解決事件をモチーフにした衝撃作
映画「罪の声」を観てきましたのでレビューを書きます。
映画の公開は2020年10月30日になります。
映画自体が約2時間半と結構長かったので、途中だれるかなとも思っていたのですが、一気に時間が経っていきました。
俳優陣の演技も惹きこまれていきましたし、ストーリーも小栗旬さんと星野源さんがバディを組んで追ったまさかの事件の結末に驚かされました。
そして、驚きだけでなく、さらに切なさや心に刺さってくる痛さも味わえる作品でした。
後半では、ネタバレもありで感想を書いていきますので、まだ観てない方はご注意してください。
映画「罪の声」とは
罪の声は、著者・塩田武士の日本のミステリー小説が原作です。
原作は2016年に刊行され、同年の週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位を獲得するなど多くの賞を受賞しています。
そして本作は、1984年に実際に起こった未解決事件「グリコ森永事件」をモチーフとして作られています。
グリコ森永事件は、関西を舞台に食品会社を標的とした企業脅迫事件で、社長の誘拐、脅迫、放火、青酸入りお菓子のばらまきなどが実際に起こり、そして2000年にすべての事件の時効が成立し、この事件は完全犯罪となり、未解決事件となってしまいました。
著者の塩田武士は、大学時代にグリコ森永事件の関係書籍を読み、いつかこの事件を題材とした小説を執筆したいと考え、当時の編集者に相談したが、「今はまだあなたでは書けない」と言われ、そこから数年経ってようやく書いた作品です。
そして、執筆の際には、当時の新聞などは全て目を通し、事件の発生日時、犯人による脅迫状、事件報道など極力史実通りに再現されています。
映画を見ると、あまりにリアルで本当にこれは事実で、実際の犯人もこれと同じ手口だったのではないかとその臨場感を感じさせられました。
予告編はこちら
あらすじ
親から譲り受けた店で紳士服のテーラーを営む曽根俊也は、ある日父の遺品の中からカセットテープと手帳を見つける。
ノートは英語で書かれており、その中に「ギンガ」「萬堂」という文字を見つける。
テープを再生すると、子どもの声が録音されており、その音声は31年前に大手製菓メーカーのギンガと萬堂をはじめ食品会社数社が脅迫・恐喝され、時効が成立し未解決となったギンガ萬堂事件の脅迫で使われた音声だった。
そしてその録音された子供の声は、俊也の子どもの頃の声だった。
俊也はなぜ自分の声が使われているのかに疑問を持ち、ギンガ萬堂事件を調べ始めます。
一方、同じころ、大日新聞大阪本社で文化部記者を務める阿久津英士は、ギンガ萬堂事件の企画記事に応援要員として駆り出され、事件について調べ始めます。
事件のヒントを得るため、イギリスに向ったり、証券関係者をあたったりしますが、中々結びつく話は得られません。
そんな二人は事件を追っていく中で、お互いの存在に気づきます。
そして、二人の調査が重なり互いに協力して探っていくことで、事件の真相が徐々に明らかになっていく。
「罪の声」のネタバレなし感想
本作はフィクションではあるが、著者がグリコ森永事件を調べ、かなり精巧に史実を再現されており、本当にノンフィクションかと錯覚するかのようなリアリティに驚かされました。
映画の中のギンガ萬堂事件は、固有名詞こそ変えているものの、グリコ森永事件と事件の内容はほぼ同じに描かれています。
「ギンガ」を「江崎グリコ」、「萬堂製菓」を「森永製菓」に、そして「ホープ食品」を「ハウス食品」、「又市食品」を「丸大食品」、「くら魔てんぐ」を「かいじん21面相」に置き換えるとグリコ森永事件になってしまいます。
脅迫電話に子どもの声の録音を使ったのも同じだし、マスコミや食品会社への挑戦状なども見事に再現されています。
実際のグリコ森永事件は未解決事件となっており、犯人は不明のままです。
当時、「キツネ目の男」と呼ばれた犯人の目撃情報や、脅迫の録音など証拠はあるが、犯人が捕まらず、不思議に思っていたし、今でも犯人の狙い、真犯人は誰か、を知りたい人は多いと思います。
本作はフィクションではありますが、実際の事件とほぼ同じ内容で作られており、これがグリコ森永事件の真相なのかとも思わされる程、楽しめました。
前半は曽根と阿久津がそれぞれの観点から事件を追っていきます。
様々な証言者に会って話を聞いていくうちに、事件の真相が徐々に明らかになっていく様はよかったです。
出てくる俳優陣が素晴らしく、登場人物の1人1人が丁寧に描かれており、その役の生き様まで見えるようで息を飲みました。
前半は謎解きのように進んでいきますが、後半は一転してドキュメンタリーのように話が展開していきます。
それは、この事件に使われた脅迫状の音声には3人の子どもの声が使われていて、曽根以外にあと2人の事件の罪を背負った子供がいます。
後半はその残りの子どもの人生に焦点があてられて進んでいきます。
- 残りの2人の子どもは一体誰なのか?
- 子供は現在どこで何をしているのか?
- 幸せに生きているのか?
脅迫状に自分の声が使われ罪を背負った曽根が同じ境遇である2人を探し、訪ねていくシーンはめちゃくちゃ見応えがありました。
そして、最後には、曽根の声を使い、事件に巻き込んだ真犯人も判明します。
その真実に対して、曽根と阿久津がそれぞれ対面していくシーンはこちらも心が痛くなるほど刺さりました。
本作はサスペンスのようで、ミステリーのようで、ドキュメンタリーのようで、しっかりと物語を伝える本当にいい「映画」でした。
気になった方はぜひ劇場で観てほしいと思います。
「罪の声」のネタバレあり感想
それでは、ここからはネタバレありで感想を書いていきます。
本作は観ていて本当に胸が締め付けられる苦しさがありました。
曽根自身も突然35年前の事件に自分が関与していたという事実に苦しめられ始めます。
事件の真相を追っていくが、その結果、今の幸せな家庭が崩れるかもしれないというその葛藤も強く感じました。
最後に自分の声を録音し、利用したのが、母親と叔父ということに気付いたとき、その母親と対面し、静かに問い詰めていくシーンはみているこちらもとても辛かったです。
そして、声を利用された残りの2人の人生。
その生島きょうだいの弟、生島聡一郎を演じた宇野祥平さんには圧倒されました。
彼の芝居が本作にグッとリアリティと重みをもたらしていたと思います。
その一つ一つの演技が素晴らしく、聡一郎が登場したまさに生死の境にいることを感じされられたシーン、そして聡一郎がギンガの看板の前で佇む姿には息を飲むものがありました。
曽根と阿久津が聡一郎と会ったシーン。
聡一郎は「あなたの人生はどうだったんですか?」と聞かれた曽根が「私は・・・」と答えたところで、映像が切り替わりましたが、その時、曽根はどう答えたのでしょうか?
同席した阿久津は思わず顔をそらしてしまいます。
僕はこの言葉につまってしまった曽根の気持ちが痛い程わかりました。
曽根は事件への関与は全く知らず、幸せな家庭を築き、過ごしてきました。
一方で、聡一郎と姉、望の人生は壮絶すぎます。
親が犯罪に加担し、脅迫電話の声を録音させられたために、人生がめちゃくちゃになってしまい、余りに悲惨で辛すぎる。
映画の翻訳家になるのが夢だった望が、棄てられていた古本の映画雑誌を見つけて読む場面。
そして、友人に電話し、人生を狂わせた「ギンガ」の看板の前で待ち合わせし「絶対に夢を叶える。私の人生やもの」と話す場面。
これらの場面では涙が溢れてとまりませんでした。
そして聡一郎。
彼の事件からの35年の半生、その苦悩と絶望が苦しかった。
姉の望は目の前で事故死。
母親とは火事の時に生き別れてしまいます。
どちらも自分のせいだと責任を感じ、そして世間の目を避けるように逃げて生きていました。
生島きょうだいも、曽根のように幸せな人生を歩んでいてほしいと思いましたが、人生はめちゃくちゃにされました。
聡一郎が曽根の仕立てたスーツを着たシーンでは、何の会見をするのかと思いましたが、その会見が始まると涙がでてしまいました。
最後に、聡一郎が母親と再会できたのは唯一の救いだったと思います。
母親が「望に会いたい、声が聞きたい」と言い、阿久津が望の声の脅迫文を聞かせる場面。
望の人生を狂わせた声の録音が、唯一の望の思い出とは本当に悲しすぎる。
しかし、その「罪の声」が母にとっての「救いの声」になったシーンは心を震わされました。
僕は見終わった後に、「罪」とは何かを深く考えされられました。
とても重いけど本当に見応えのある映画でした。
そして曽根、阿久津が最後に犯人に告げた言葉
「私はあなたのようにはならない。」
過去の事件に縛られて彷徨うのではなく、現実を向きあい、悩み苦しみながらも未来へ向かって歩いていくという曽根の強い気持ちを僕は感じました。
まとめ
今日は10月30日公開の映画「罪の声」を紹介しました。
本作は、未解決事件の真実に迫るミステリーやサスペンスのようでもあったが、その見どころは後半から始まる犯罪とは知らずに脅迫電話の録音に協力したことを知り罪悪感を持つ、子供に焦点を当てた部分だと思います。
生島きょうだいに焦点を当てることで、この映画に深みがでたし、泣ける映画になっていました。
エンドロールで流れたUruさんの主題歌「振り子」もその歌詞が、亡くなった望と重なって、とてもよかった。
2時間半という長い映画でしたが、途中飽きずに一気に観れる素晴らしい映画でした。